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「麻の葉」第51号

2023/05/31 (Wed) 23:09
麻布教育研究所長通信「麻の葉」第51号

最近、ほっとする教室に何度か連続して出会いました。どの子もストレスや
プレッシャーにさらされることなく、ニコニコしてそこに居られる、そんな
教室です。私が関わっている学校さんで、そういう教室が着実に増えてきて
いるなと思うようになりました。

どうしたらそういう教室が実現されるのだろうと思い、先生に「何を大切に
しておられますか」と聞いてみると、「あの子たち、なにやってくれるかな
というのが、毎日たのしみなんです」「私、ヘンかもしれませんが、なにか
トラブルが起きると、よし、って思うんです」という不思議な答えが返って
きました。とくに後者のほうは補足が必要かもしれませんが、いずれにしても
予定外のことを楽しみにして、しかもそれが学びにつながるチャンスだと
捉えていることなのかもと思いました。

そうしたわけで、子どもたちは遊びにしても学習にしても、まずはやって
みて、だめならお友だちに聞いたり、助けてもらったりしているので、
だれも緊張しなくてすむのでしょう。いわば、健全な相互依存が成立して
いる空間なのだろうと思います。そういう教室を見ると、私はほっとして、
「ああ、上質な空間だなあ」と感嘆します。

逆に、空気がピリピリしていて、暗い表情の子がいたり、粗暴な言葉が
飛び交っていたりするような教室も、やはりあります。それは、先生が
何事も自分の予定通りに進むことを好んでいる場合のようです。そういう
ところでは、子どもたちは相互が敵になってしまいます。誰かがズルして
得していないか、いつ自分がのけ者にされないか、疑心暗鬼で日常を過ごし
ています。子どもが相互監視してくれるおかげで、先生としては、自分の
思い通りのことが実現します。しかもそれが、自分の指導力であると勘違い
したままでいられます。
自分が気持ちよくなる学級をつくろうとしている先生の教室に入ると、
子どもと同様に私の表情も暗くなります。

私にはよくわからない感覚ですが、できのいい生徒を育てたり、外から
見て元気ハツラツな学級がつくれると、自分の手柄になると思い込んで
いる先生がいるようです。あるいは部活の大会とかコンクールなどが
目標になることもあるかもしれません。
どうしてそういうことをするんだろうと考えていたのですが、あるとき、
それって、子どもを使って自己実現していることなのではないかという
ことに思い至りました。いま風に言えば、承認欲求を子どもの出来で
果たそうとしていることでもあります。

でも、それは、人としてどうなのでしょう。自己の欲望の手段として
他者を扱うというのは、その人の品格が問われる事態です。ましてや、
教師という職にあっては、これほど危ない姿勢はないでしょう。

英語の「calling」が「職業」の意味を持つのは、神に呼ばれたからだ
そうです。そこに居る子どものために心を砕くべしと召喚された人が
教師です。いまそこに起きることに身を委ね、最善を模索する仕事です。
その意味では、崇高な受動性とも言える職業であり、それが本稿の冒頭
に記した先生たちの言葉につながっているのだろうと思います。

逆に、我が出しゃばり、自己の欲望が顕わになっているのは、あまり
よろしくない種類の能動性となるでしょうか。

ただ、ここから先で気をつけなければならないのは、そうした能動性を
生きている先生を、ただ非難してしまってよいのかという問題です。
このことは、またいつか稿を改めて書きたいと思いますが、少なくとも
いま言えるのは、学校を訪問する私もまた受動性を生きねばならない
という、私自身の職業倫理の問題です。難しいことですが、自問自答の
日々です。

さいごにお知らせです。
『教職研修』7月号の原稿執筆という、とても貴重な機会をいただきました。
「子どもと教師で築く「学びの土台」―「教える」「教わる」垣根をとり、ともに探る豊かな学びを」
という特集で、
「「子どものために教える」思想にとらわれ過ぎない」
というタイトルをいただいて書いたものです。
ある意味では、今回考察した「能動性」について、またべつの角度からの
考察になっているかもしれません。
もしお手にとられる機会がございましたら、ありがたく存じます。

村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net