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「麻の葉」第50号

2023/03/31 (Fri) 15:00
麻布教育研究所長通信「麻の葉」第50号

私がここ数年参加しております、JICAのパレスチナにおける教育改革支援の
プロジェクトで、本年2~3月にもまた現地渡航してまいりました。
日本で言えば指導主事に相当する現地の視学官の力量を向上させることで、
授業改善を目指しているところです。今回は、同国の視学官たちが、授業
参観後に教室の生徒の写真や動画をシェアしながら、本時の授業について
語る姿に強く感銘を受けました。

このプロジェクトのことは、またいつかしっかりお伝えしたいと思うの
ですが、同時に、現地でずっと教員のストライキが続いていることに遭遇し、
そちらもまたいろいろ考えさせられました。
https://www.arabnews.jp/article/middle-east/article_85052/
主な争点は、給与が20%も削減されていることであり、それはそれで
イスラエルとの複雑な関係に拠る問題で難しいことなのですが、とにかく
同国の教員たちが、さまざまに生徒の学習を守ろうとしつつ、しかしそれでも
ストライキとして意見を表明している現実に接したわけです。

他方、私は直接には知りませんが、英国においても教員のストライキが
大きなニュースになっていると聞きます。
https://jp.reuters.com/article/britain-strikes-idJPKBN2TV180

もちろん日本では、地方公務員である一般の公立学校教職員がストライキ
できないことは理解しております。ストライキをするかしないかということ
ではなく、意見を表明することの意味を考えてみたいと思うのです。

かつて、教員養成大学で教えていたころ、なにかのときにこんな話を学生に
したことがあります。
「教員が子どものために身も心も尽くし、捧げることって、その心持ちは
よいのかもしれないけど、気をつけるべきこともあるかもしれないよ。
自分の心身を傷つけてしまったり、家族を犠牲にしてもよいのだろうか。
自分を守れない人が、どうして児童生徒を守れるのだろうか。そういう
ことも、どこかで考えてね」と。

いまこれを振り返って考えれば、「自分の人権に鈍感な人が、どうして
他人の人権を守れるのだろうか」という問題提起だったのかなと思います。

とても不思議なことなのですが、日本という社会では、自分の権利を主張
する人は、他人の権利を侵害または無視する人、みたいなイメージがある
ような気がします。どうしてそうなってしまったのかは、私にはわかり
ません。

そしてこれも憶測でしかないですが、西洋流の民主主義社会の前提には、
自分の権利をしっかり主張する人は、他人の権利も守る人として信頼され
ていることがあるのではと思います。
だから、ヨーロッパでは公務員のストライキが一般的なのだろうと思い
ます。公務員は、公務員だからこそ率先して働く人の権利が守られる
ことを実践していく義務を負っていると考えてもよいかもしれません。

たぶん日本は逆で、公務員がしないものですから、私企業においても
権利を主張しないことが働く人の美徳であるかのような誤解が生じて
いるのではないでしょうか。
とうぜん、子どもたちも、権利を主張しない子どもがよい子であると
思われ、また当人たちもそう信じ込まされて育ちます。
結果的に、権利を主張しない社会、権利を主張する人を忌避する社会が
再生産されていくことになります。

ところで、上に書いたように「教員の給与20%削減」と聞くと、
日本の先生たちの多くは「まあ、なんてかわいそう」と思うでしょう。
でも、自分たちは、8時間なりの勤務時間の2割増し以上の勤務時間で
毎日を過ごしていませんでしょうか。実質給与は20%オフみたいな
ものです。

今年3月8日には、残業代を求めて提訴した埼玉県の教員の敗訴が
最高裁で確定しました(上告棄却)。さいたま地裁、高裁での判決が
支持されたということです。
https://sp.m.jiji.com/article/show/2907715

その中身を、全国の先生方はどのくらいご存知でしょうか。
裁判所は、「教員が業務でないことを自主的にやっているから時間内に
終わらないのでは?」という疑問も呈しているのですが、その業務でない
ものの範囲は、大きな衝撃を与えました。
https://president.jp/articles/-/53725?page=1
さいたま地裁によれば、「掃除用具の確認と落とし物整理」「掲示物、
作文のペン入れ」「児童のノート添削」「賞状の作成」「保護者への対応」
「ドリル、プリント、小テストの採点」これら全て、教員の業務では
ないそうです(2021年10月1日)。

じつのところ、日本全国の先生たちが全員明日から定時に帰るだけで、
学校教育は瞬時に崩壊するでしょう。ストライキなんかするつもりがなく
てもです。

健全に働くというのは、現代の社会、国家においては、基本的な権利だと
思います。子どもたちのいちばん身近にいる大人としての教員は、それを
体現する義務があるという視点からも、働き方改革を考えたいです。

村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net