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「麻の葉」第46号

2022/07/31 (Sun) 07:00
麻布教育研究所長通信「麻の葉」第46号

5月に、経済産業省が「未来人材ビジョン」というレポートを出しました。
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001.html
「2030年、2050年の産業構造の転換を見据えた、今後の人材政策について
検討するため、「未来人材会議」を設置し、雇用・人材育成から教育システム
に至る政策課題について一体的に議論」した結果だそうです。
そして、ポイントのひとつめは「旧来の日本型雇用システムからの転換」で、
もうひとつは「好きなことに夢中になれる教育への転換」だそうです。

このレポートに書かれている経産省の政策の方向性に、必ずしもすべて賛同
するものではないのですが、重要なデータがいくつも掲載されているので、
ぜひ皆さんもご覧になられたらと思います。とくに私を含めて50代以上の
方々は、1980年代後半の「Japan as number one」のイメージにとらわれ、
いまでも日本が先進国であるという幻想から離れにくいことを考えますと、
これらのデータを直視することが必要だろうと思います。この国のダメっぷり
をとくとご覧ください。

いっぽう、教育分野でとくに気になるのは、
「自分で国や社会を変えられると思う」
日本18%、韓40%、中66%、英51%、米66%、独46%
「自分の国に解決したい社会課題がある」
日本46%、韓72%、中73%、英78%、米79%、独66%
といった数字です。

かねてより私は、教育には相反する二つの性格があると考えてきました。
一つは社会文化を継承する性格、もう一つは社会文化を変革創造する性格
です。大雑把に言ってしまえば、日本では前者のほうばかりが強調されて
いるのではないか、というのが私の問題意識です。このメルマガで何度も
言及したOECDのEducation 2030が「Agency」という行為主体の概念を
打ち出しているのに対して、日本の教育は、青少年を社会に適合させる
ために、あえてエージェンシーを減じる教育すらしているのではないかと
疑ってしまう場面が、学校の日常風景に満ちあふれていると思いませんか。
「考えるな」「意見を言うな」「みんなと違うことをするな」「言われた
とおりにしなさい」等々の明示的または暗示的なメッセージの数々、そして
ある子が発言すると「いいでーす」「同じでーす」といっせいに他の子が
言う授業。

2000年代ころから教育界に流行り始めた「コミュニケーション力」という
のも、いまいちど考え直してみる必要があると思います。学校関係者が
イメージするコミュニケーション力とは、空気を読んでその場にふさわしい
ように振る舞い、矛盾や葛藤を回避する力になっていないでしょうか。

しかし、本レポートによれば、日本の企業でさえも、トップランナーの
企業で望まれている人材は、「常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを
生み出す能力」「夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢」
「グローバルな社会課題を解決する意欲」「多様性を受容し他者と協働
する能力」なのだそうです。そこで想定されるコミュニケーションとは、
違いを認め合い、交渉し、ギリギリのところで一致点を見出し、ビジョンを
共有し、新しいものを生み出すための力でしょう。

「わたし」と「あなた」がいるからコミュニケーションが成立するので
あって、「わたし」が「みんな」に溶解させられるところに、真の意味で
のコミュニケーションがあるはずもないと思います。

そしてこのレポートは、その先をこう続けます。
「教員に探究や研究を指導する役割が期待されてこなかった中、学校だけ
に多くの役割を求めるのは現実的ではない。学校の外で多様な才能を開花
させる「サードプレイス」を広げるべきである。」
のだそうです。そして、
「デジタル時代では、教育を「1知識の習得」と、「2探究(知恵)力の鍛錬」
という2つの機能に分け、レイヤー構造として捉え直すべきではないか。」
と提言します。1は企業がネットで提供し、2は企業の見識を導入すべし
ということだそうです。
いちおう、知識は企業がネット上で提供するから、教員はこれから探究の
ほうに注力してください、という提言で結ばれていますが、上の認識から
すれば、あまり期待されていないことは明白です。

たまたまこのレポートを見かけたのがある学校の訪問日だったので、
同校の俊英たる研究主任さんに見せてみました。
「俺たち、舐められているってことですよね」
と彼は言いました。
きっとそうなのでしょう。しかし、学校教員の多くが彼と同じように
思うかどうかは、私にはわかりません。探究はおろか知識の伝授さえも
放棄し、コミュニケーション力という名の自己埋没スキルを叩き込む
学校だけでかまいませんと、教員自身が言い出さないか、とても心配です。
それでも、この研究主任さんのような教員がいてくださることが、
未来への希望です。

いま私は、JICAのプロジェクトでパレスチナに3週間の滞在中です。
https://www.facebook.com/Piqmas-Palestine-102831498978501/
当地の教育庁のスタッフや地方の視学官という方々、そして教員たちと
学校教育を変革する仕事です。矛盾や葛藤が日常生活や生命さえ脅かす
この土地で、学ぶことの多い仕事になります。

村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net