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「麻の葉」第41号

2021/09/30 (Thu) 23:50
麻布教育研究所長通信「麻の葉」第41号

この8~9月には、二つの大きな調査の結果が報告されました。
一つは、みなさまよくご存知の全国学力学習状況調査で、もう一つは、
OECD(経済協力開発機構)の社会情動的スキル(≒非認知能力)に
関する調査の結果速報です。

全国学調は、長いこと全国の学校にプレッシャーを与えてきましたが、
今年は幸か不幸か、学校も委員会も、コロナ対策でいっぱいいっぱいで、
これまでにくらべて、あまり結果が騒がれなかったように思いました。
昨年、中止になったことも影響しているかもしれません。
たぶんもう、この結果のランキングで一喜一憂する時代は過ぎたのだと
思います。たとえばある科目の都道府県別の正答率を順位で考えたとして、
平均正答率が2ポイント上がるだけで30位の県は10位になるのです。
まさに「どんぐりの背比べ」なのに、順位を競って何が見えてくるという
のでしょうか。全国平均を上回ったかどうかに注目するなどというのは、
中学校数学で学ぶ統計リテラシーをもういちど学習し直さないといけない
事態ではないでしょうか。

それよりも考えるべきなのは、1位の県と47位の県との格差よりも、同じ
県内の格差のほうが大きいこと、全国平均がおよそ65%の正答率だとして、
その得点分布のグラフは、下位層のほうでとても長く伸びていることの意味
です。私たちが見なければならないのは、平均点ではなく、個々の学校や
子どもたちの学びと暮らしの実態であるべきでしょう。

そんなことを考えていたときに、上述のOECDの報告がありました。
OECDはもちろん学力調査PISAで有名なのですが、ここ最近は学力に
加え社会情動的スキル(social emotional skill)に注目して調査研究
を行っておりました。このたび発表されたのは、その成果の速報です。
その名も「Beyond Academic Learning」ということで、目に見えやすい
学力=認知能力を支え導く以上に、豊かで幸せな人生の駆動因として
社会情動的スキルや非認知能力に注目してきたのでした。
https://www.oecd.org/education/ceri/social-emotional-skills-study/

これは、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、南・北アメリカなど世界中の
10都市に暮らす、10歳と15歳の子どもたちとその保護者、学校教員を
対象に、主に質問紙などで調査した研究です。
ここで想定された主な社会情動的スキルは、心理学のいわゆるBig Fiveの
理論をベースに「課題解決力」「情動の制御」「協調性」「開かれた心」
「他者との関わり」の5つの主領域+これらを横断するもう1つの主領域
があり、その下にはそれぞれ「粘り強さ」「楽観性」「好奇心」「信頼」
など合計で18個の副領域があります。このほかには、家庭の経済状況や
文化資本、学校の雰囲気等々の生活環境、学習環境を尋ねる項目が質問紙
に含まれています。そしてこれらが、いわゆる学力とどのような関係に
あるのか、どのような環境だとどれが高位になるのかなどについて、
都市ごと(文化ごと)、性別、年齢それぞれの条件を替えながら考察して
いる分析結果でした。

 詳しくは前掲のサイトを見ていただくか、これから文科省そのほかで
翻訳されるであろう報告などを読んでいただくかすればよいのですが、
一つだけ、とても重要な分析結果をお知らせします。

 それは、文化差や性別差や年齢差に関わらず、一貫して学力と最も
相関が高かったのは、「好奇心」だったという結果です。これに比べ
ますと、他の社会情動的スキルは、それほど明瞭には学力に関わっては
いませんでした。

 学校ではあまりお話しておりませんが、私の保育園・幼稚園でする講演、
保護者や地域対象の講演をお聞きくださった方は、その話の中で「好奇心」
がキーワードだったと覚えていてくださっているかもしれません。
OECDのこの報告よりずっと以前から、私は人間が学び育つ原動力の一つが
「好奇心」であろうと考えてまいりました。

もともと、ヒトの赤ちゃんは、必要な能力を持って生まれてはこなくて、
生まれた後に、環境との相互作用で後天的に能力を形成していくように
設計されています。だから、環境に作用することとその反作用を感知する
ことは、ヒトが生きていくために持たされた至高の能力であり、それが
長じては「好奇心」と呼ばれるものであろうと思うのです。それゆえ、
環境に身も心も開くことは、ヒトが育つための条件と言えるのです。
ただ、高度に文明化された社会では、制度や慣習という道具立てがある
ので、好奇心が薄くても生きていけるようにはなっているわけです。

さて、これまで学力至上主義だった方々は、OECDの結果を受けて、
さっそく「好奇心」を伸ばそうとするのでしょうか。そして、それが
いかに無謀なことか思い知るでしょうか。「好奇心」は潰さないように
するのが大人にできるせいぜいであり、伸ばすというのはきわめて
難しいことです。

先の全国学調の結果に戻りましょう。学力格差とは、好奇心格差です。
私たちが気にしなければいけない子どもたちの暮らしとは、好奇心を
持つことが許されない暮らしです。
日本では、好奇心などというのは、恵まれたお坊ちゃんお嬢ちゃんの
玩具でしかなくて、学力の低い子たちは、わき目もふらずに勉強しな
ければいけない、それがこの国の貧しい教育の実態です。全国学調の
平均点狂想曲は、この実態に拍車をかけただけだったのではないか、
関係者が省みるべきときです。


村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net