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「麻の葉」第40号

2021/07/31 (Sat) 22:00
麻布教育研究所長通信「麻の葉」第40号

コロナの感染状況について、いよいよ厳しさを増している昨今です。
立場によって考え方は様々と思いますが、政策として、冷静なロジック
と希望のビジョンを兼ね備えたメッセージが届けられているようには
感じられない点に、大きな問題があるように思われます。

そんな中、学校の現場はいかがでしょうか。
令和3年度から数年の単位で整備される予定ではあったICT、GIGAの
構想が、あっという間に優先課題として全国一斉実施され、日本中の
児童生徒がタブレットを持つようになりました。
1年前にこれらの報道に接したころ、私の予想はあまりポジティブなもの
ではありませんでした。過去のいくつかの教育政策、改革がそうであった
ように、そこそこ実施され、そこそこスルーされ、そんな感じになるの
かなと思っておりました。

しかし、この1年全国の学校を廻った私の目に入ったのは、予想と全く
異なる光景でした。とても想像できなかった格差が生まれていました。
地域ごと、学校ごとに、これほどの差異が生まれたのは、日本の学校教育
の歴史において稀有なことではなかったでしょうか。

あるところでは、教室でタブレットの姿を目にしませんでした。今まで
と変わらない教室の風景、変わらない授業スタイルがそこにありました。
一方で、ある地域では、またある学校では、タブレットが日常の学習に
溶け込んでいました。

ある小学校1年生の教室では、「はい、では国語の教科書とタブレット
を出してください。そしてグーグルクラスルームの6月17日をひらいて
ください」で授業が始まるのです。いままでなら「教科書とノート」の
部分が、「教科書とタブレット」なのです。それも小学校1年生で。
どうするのかなと見ていたら、みごとなものでした。子どもたちが指示
どおりに開くまで、2分かかりません。その秘密は、「おともだち」に
あります。「開けたかどうか、おともだちも見てあげてね」と先生が
言うだけで、子どもたちは上手に助け合いながら、準備できていました。

またある中学校では、朝、登校したときにまず自分のタブレットを取り
出すのだそうです。そして、一日、それを持って教室も移動しますし、
休み時間もずっとタブレットを持ったまま、開いたままです。こうして
おくと、「授業のたびに開いたり接続したりしないから、時間のロスが
ないのです」というお話でした。たしかに、多くの学校では、授業の
途中で、「ではタブレットを出してください、◯◯を開いてください」
とやるので、あちこちで、立ち上がりませんとかつながりませんとかの
ロスが生まれています。この学校ではそれがないので、どの教科の先生
でも、タブレットを使う気持ちのハードルが低くなったということです。

この学校の生徒たちは、休み時間は自由にタブレットを使っています。
ネットを見るもよし、ペイントアプリでイラストを描くもよし、様々な
子たちがいます。休み時間の文房具ですから、それでよいのです。
これまでだって、休み時間には文房具は遊び道具でした。みなさんは、
ボールペンと消しゴムでバトルをして遊んだ記憶はありませんか。
ノートの空白に、好きなキャラのマンガを描いていませんでしたか。
授業時間になったら、それらが学習道具に戻ればよいだけなのです。

この学校の先生たちはまた、おもしろいことを言っていました。
「意外とうちの生徒たち、遊ばないね(^_^;)」
というものです。タブレットを導入し、上記のような運用にするときに、
やはり懸念はあったそうです。しかし、やってみると、心配していたのは
始めの1週間くらいで、あとは平穏な日常だそうです。

じつは、同校はたいへんな学校でした。生徒たちの“問題行動”も多く、
生徒指導困難校と地域でも認識されていました。しかしその学校が、学びの
改革をはじめてから10年近くになり、探究と協同の学びが定着したとき、
このタブレットが入ってきました。学びの喜びを知っている子どもたちに、
“学習規律”という言葉は無用です。ごく普通の日常に、新しい文房具が
自然に入ってきただけでした。

一方、学びのスタイルとの親和性も重要なポイントです。教える授業では、
タブレットは出番がありません。出番がないのに無理やり使うから、先生は
使いにくいし、子どもたちは余計なことをしてしまうのです。
子どもたちが考え、選び、表現する学びであれば、どの場面でもタブレット
が活躍できます。だからタブレットは文房具になることができました。

かつて、自治体の教育行政担当者は、学力テストの数値を気にしていました。
いま、その人たちは、タブレットの稼働率という数値を気にしています。
どちらも同じ落とし穴に嵌っています。数値を上げようとして、変な施策を
変にひねくり回しているばかりです。
話の筋道は、いつも逆です。学びの質が向上したときに、気にされている
その数値は上がるのです。

村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net