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「麻の葉」第36号

2020/11/30 (Mon) 21:00
麻布教育研究所長通信「麻の葉」第36号

コロナとともに始まった2020年は、そのままコロナとともに暮れようと
しております。医学、科学的にはまだ様々な見解があるところですが、
ウイルスとは何らかの意味で共存していく視点が必要であると言わざるを
えないでしょう。問題は、「共存」とは何かについてのイメージの共有が
難しいところです。

イメージの共有について、教育に関しても、最近考えさせられる発見があり
ましたので、以下3つほど書いてみたいと思います。

「不登校を減らす」
あるところで話していたときに、「え、そういう発想があったんだ」と私は
驚き、また先方も「え、村瀬さん、そういう人多いよ」と驚いていました。
ある先生たちにとって“不登校を減らす”とは、いま学校に来れていない
子どもたちをなんとか励まして学校に来させることだというのです。私は
そのようなことは想定外でした。私や私と協働する先生方にとって、
“不登校を減らす”とは、学校に行きたくないと思う子どもが出てしまう
ような、居心地のよくない教室や楽しくない授業を減らすことだと思って
おりました。個々の子どもにとって、登校するかしないかの選択については
一様に言うべき事柄ではないはずで、もし自治体単位で“不登校を減らす”
が教育目標に掲げられるのであれば、それは前者ではなく後者であるべきと
思います。しかしながら、そういうスローガンが一部の校長先生には登校の
促進と受けとめられているという事実を聞いて、驚いたわけです。

「学級経営」
よく研究授業などの協議会で、「日頃の学級経営がよいのでしょうね」という
ご意見を耳にします。私は、ほんとうにそうなのかなあと思っておりました。
というのは、私が知っている「あの人は学級経営が上手い」と言われている
先生の多くは、学級経営をしていないことを知っているからです。

その先生たちがしていることはもっとシンプルであるようです。
・すべての子どもの言葉をゆったり、しっかり聞く
・授業内外で、子どもたちが選び、決めて、表現する場面が保障されている
・目標を、指導と罰で語るのではなく、希望と喜びで語る
・行動や判断の基準が共有されていて、恣意的に動かされない
・先生自身がまちがっていたときには、素直に謝る
だいたいこれら4つ5つのことを実行するだけで、子どもたちの学習意欲は
高まり、優しい気持ちでお互いを認め合い、教室が安定し、結果的として
「あの人は学級経営が上手い」と言われます。

にも関わらず、多くの先生たちが虚構の学級経営を追い求めて、事態を難しく
していないでしょうか。学級の子どもたちを、コントロールすべき対象として
マス(集団)で捉えて、リーダーとフォロワーという階層を設定し、忖度と
同調圧力をてこに、こちら側の意図するように動かすことは、どこかに歪みを
生みますし、じっさいに多くの場合破綻しています。破綻しないのは、先生の
個人的な人柄や、気立てのよい子どもたちに支えられているときです。

「学力を伸ばす」
学力が数値で表せるかどうかという論争を越えて、数値で表せる学力がある
ならば、それはそれで実践にあたって指標になるであろうし、伸ばすことも
やぶさかではないと思っております。ただ残念なことは、指標となるだけの
数値が、いまの日本では利用できることがまれであるという問題があります。
川口俊明『全国学力テストはなぜ失敗したのか:学力調査を科学する』は、
その点で教育行政関係者は必読の書です(https://amzn.to/2KR3tCe)。

点数が上がったことが学力向上の証拠にはならないという事実を、もっと
知ってもらわなければと、川口先生や私などが思っている一方で、全国の
多くの学校・教委は、「全国平均・県平均を超える」を目標に掲げていたり
します。みごとなまでの統計リテラシー欠如の例です。なんのために前の
学習指導要領改訂から統計を重視し、今次改訂でさらに拡充しようとして
いるのか(こういう大人を出さないためですか…)。
平均以下だったA校が、がんばって学力を上げたとしましょう。同じくらい
県内の他校も全部ががんばって学力を上げたら、A校の学力が上がっていたと
してもやはり平均点以下になるでしょう。そういうことです。
点数についてこだわるならば、点数についてもう少し大人たちが勉強したら
いいのにと思います。

以上、3つの発見を書いてみました。私の意見は、学校の常識からかけ離れて
いるかもしれません。でも、だからこそ言うことに意義があるかもと思います。
言葉、概念の意味するところをつねに吟味することは、広義の社会科学の
基本であろうと思います。人々の行動に変化をもたらしたい、そのための
しかけを考えたいというときに、私たちが持っている道具立て=言葉や概念を
再検討し続けながら共有することは、重要になってくると思います。

村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net