「麻の葉」第34号
2020/07/31 (Fri) 11:00
麻布教育研究所長通信「麻の葉」第34号
コロナもいよいよGo toの東京除外とか第2波であるとか、事態は混沌と
してきました。少しばかり日常が戻った学校の現場にも再び緊張が増して
きたところで、オンライン、ICTについての考え方も待ったなしの状況かも
しれません。文科省は当初より、コロナが過ぎ去ればよいということでは
なく、ハイブリッド(混合)の発想でいきましょうという立場を鮮明に
打ち出してきたと思います。
私自身は必ずしも教育工学の専門家ではないのですが、じつはPCライター
であった過去とか、米国のAACEなどという学会で発表した経歴などから、
素人とも言いがたい微妙な立場です。
https://t.co/OomjWraJ3A?amp=1
https://www.learntechlib.org/p/23126/
そんな私のICT経験の一つに、20年近く前、ある国立大学で生活科指導法の
非常勤講師をしたときの実践があります。非常勤講師は、学生とは週に一度
90分の講義だけのお付き合いになるわけですが、そこで私は、裂け目を作る
ことと繋がりを作ることの両方を試みました。
裂け目というのは、大学の講義をいかに解体するかということで、第一に
グループ学習を中心に、講義室の外にも出る活動を多く取り入れました。
「生活科」の指導法ですから、まずは学生さんたちに生活科そのものを体験
してもらうために、「キャンパス探検」から「野菜づくり」まで、いろいろ
やってもらいました。
野菜づくりもまた別の種類の裂け目の一つで、非常勤の立場にもかかわらず
当局にお願いして、キャンパスの片隅にプランターを置くことを許可して
いただき、そこに苗を植えて野菜を栽培できるようにしたのでした。
栽培にあたっては、グループが順に当番になって、今週は〇班ということに
しました。当番は、その週の水やり責任があるとともに、週の途中には
栽培報告を写メで行うという任務がありました。ちょうど大学生も携帯を
持つようになり、写メが急速に広まりつつあった時代のことです。
講義と講義の中間の日に、かわいいミニトマトの写真などを撮影し、私に
メールするまでが任務です。私はその写真を、これまた当時流行っていた
プリクラのシールのシートに印刷し、講義のときに受講生全員に配りました。
講義プリントには、報告メールの文面が載っているとともに「今週のトマト」
というプリクラサイズの四角い枠があり、学生はそこにシールを貼ります。
http://azabu-edu.net/murase/tomato.jpg
https://www.sanwa.co.jp/product/syohin.asp?code=LB-PKJP4F
週に一度のお付き合いであっても、トマトを通して、心は繋がっている状況を
作りたかったのです。また、学生と学生も、交替で写メを送りながら、同じ
トマトを育てる仲間という繋がり意識を持てるのではないか、そんな期待も
ありました。
ささいなことですが、けっこう学生には好評でした。シールって何かワクワク
するもののようですね。学生たちはよろこんで当番を務め、報告をし、そして
仲間の撮った写メをたのしみにしていました。
長々とエピソードを書いてしまいましたが、要点は裂け目と繋がりであり、
リアルとバーチャルの相補性にICTの可能性を見るということです。
既存の仕組みを解体する試みは、新たな繋がりを創出する試みと裏表の
関係にあり、ICTはそういう試みにおいてこそ良さを発揮します。そのとき、
野菜づくりというリアルは、写メというオンラインのツールによって繋がる
可能性があります。両者は対立するものではなく、野菜づくりがあるから
写メの良さが引き立ち、写メがあるから野菜づくりがたのしくなります。
これが相補性です。
ICTはどう使うかというよりも、何を創り出したいのかの視点で考える
ことという、前の33号から続いてのICT論でした。既存のものの置き換え
としてのICTではなく、裂け目と繋がりの新規創造としてのICTです。
じつは私の業務も、いよいよほんとうにリモート授業参観が視野に入って
きそうです。何をどうするか、試行/思考中です。行かない代わりに中継で
見る、だけにとどまらず、創造的な何かが生まれるのかが問われるのかも
しれません。
最後に、コロナ状況下の修学旅行のあり得る姿として、興味深いニュースを
見かけたので、ご紹介します。
https://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1595381408683/index.html
ある意味、本来の修学旅行に回帰したとも言えます。知恵と工夫で
本物を追求することがだいじだと、よくわかる事例です。
村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net
コロナもいよいよGo toの東京除外とか第2波であるとか、事態は混沌と
してきました。少しばかり日常が戻った学校の現場にも再び緊張が増して
きたところで、オンライン、ICTについての考え方も待ったなしの状況かも
しれません。文科省は当初より、コロナが過ぎ去ればよいということでは
なく、ハイブリッド(混合)の発想でいきましょうという立場を鮮明に
打ち出してきたと思います。
私自身は必ずしも教育工学の専門家ではないのですが、じつはPCライター
であった過去とか、米国のAACEなどという学会で発表した経歴などから、
素人とも言いがたい微妙な立場です。
https://t.co/OomjWraJ3A?amp=1
https://www.learntechlib.org/p/23126/
そんな私のICT経験の一つに、20年近く前、ある国立大学で生活科指導法の
非常勤講師をしたときの実践があります。非常勤講師は、学生とは週に一度
90分の講義だけのお付き合いになるわけですが、そこで私は、裂け目を作る
ことと繋がりを作ることの両方を試みました。
裂け目というのは、大学の講義をいかに解体するかということで、第一に
グループ学習を中心に、講義室の外にも出る活動を多く取り入れました。
「生活科」の指導法ですから、まずは学生さんたちに生活科そのものを体験
してもらうために、「キャンパス探検」から「野菜づくり」まで、いろいろ
やってもらいました。
野菜づくりもまた別の種類の裂け目の一つで、非常勤の立場にもかかわらず
当局にお願いして、キャンパスの片隅にプランターを置くことを許可して
いただき、そこに苗を植えて野菜を栽培できるようにしたのでした。
栽培にあたっては、グループが順に当番になって、今週は〇班ということに
しました。当番は、その週の水やり責任があるとともに、週の途中には
栽培報告を写メで行うという任務がありました。ちょうど大学生も携帯を
持つようになり、写メが急速に広まりつつあった時代のことです。
講義と講義の中間の日に、かわいいミニトマトの写真などを撮影し、私に
メールするまでが任務です。私はその写真を、これまた当時流行っていた
プリクラのシールのシートに印刷し、講義のときに受講生全員に配りました。
講義プリントには、報告メールの文面が載っているとともに「今週のトマト」
というプリクラサイズの四角い枠があり、学生はそこにシールを貼ります。
http://azabu-edu.net/murase/tomato.jpg
https://www.sanwa.co.jp/product/syohin.asp?code=LB-PKJP4F
週に一度のお付き合いであっても、トマトを通して、心は繋がっている状況を
作りたかったのです。また、学生と学生も、交替で写メを送りながら、同じ
トマトを育てる仲間という繋がり意識を持てるのではないか、そんな期待も
ありました。
ささいなことですが、けっこう学生には好評でした。シールって何かワクワク
するもののようですね。学生たちはよろこんで当番を務め、報告をし、そして
仲間の撮った写メをたのしみにしていました。
長々とエピソードを書いてしまいましたが、要点は裂け目と繋がりであり、
リアルとバーチャルの相補性にICTの可能性を見るということです。
既存の仕組みを解体する試みは、新たな繋がりを創出する試みと裏表の
関係にあり、ICTはそういう試みにおいてこそ良さを発揮します。そのとき、
野菜づくりというリアルは、写メというオンラインのツールによって繋がる
可能性があります。両者は対立するものではなく、野菜づくりがあるから
写メの良さが引き立ち、写メがあるから野菜づくりがたのしくなります。
これが相補性です。
ICTはどう使うかというよりも、何を創り出したいのかの視点で考える
ことという、前の33号から続いてのICT論でした。既存のものの置き換え
としてのICTではなく、裂け目と繋がりの新規創造としてのICTです。
じつは私の業務も、いよいよほんとうにリモート授業参観が視野に入って
きそうです。何をどうするか、試行/思考中です。行かない代わりに中継で
見る、だけにとどまらず、創造的な何かが生まれるのかが問われるのかも
しれません。
最後に、コロナ状況下の修学旅行のあり得る姿として、興味深いニュースを
見かけたので、ご紹介します。
https://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1595381408683/index.html
ある意味、本来の修学旅行に回帰したとも言えます。知恵と工夫で
本物を追求することがだいじだと、よくわかる事例です。
村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net