「麻の葉」第25号
2019/05/31 (Fri) 23:00
麻布教育研究所通信「麻の葉」第25号
新しい年度が始まって2ヶ月、いかがお過ごしでしょうか。
麻布教育研究所では、新規事業が始まりました。
2019年4月、福島県の須賀川市教育委員会様と一般社団法人麻布教育研究所は、
「学校教育アドバイザリ業務委託契約」を締結しまして、法人として市内の
全小中学校の学校づくり、授業改革に貢献いたします。
昨年の10月から、アドバイザーとして関わり始めて、この4月から法人契約と
なったという経緯です。このような形の契約は、全国でも初めての例になる
のではと思います。
須賀川市教委様では、「主体的・対話的で深い学びを実現し」、「一人残らず
の子どもたちの学びを保障する」、そのために「授業と授業研究を中心とした
学校づくり」を推進していく方針です。そのお手伝いをするのが、私どもの
業務になります。
この方針は、とても貴重なものであるように思います。
ふつう、「市を挙げた取り組み」というのは、2つの型に大別されます。
一つは学力などの数値目標を掲げて、それを実現させようとする試み。
もう一つは、〇〇プランとか〇〇メソッドとか〇〇スタンダードなどを
掲げて、それを全小中学校に実践させようとする試み。
しかし、須賀川市の挑戦は、そのどちらにも与していないように思います。
上のビジョンを示すまでが市教委の役割であり、それをどのように実践で
具現化していくかは、学校の先生たちの専門性・自律性に委ねているのです。
なので、市教委の仕事は、「やっているかどうか」とチェックすることでは
なく、「できそうですか?何か困っていることはないですか?」と学校を
サポートする、市教委本来の仕事ができるようになります。「委員会が学校
にさせる」上記2つの型ではない点において、先進的かつ本質的な試みであり、
だからこそ私ども麻布教育研究所がお役に立てると考えております。
もう一つ、村瀬個人の活動としてご報告できますのは、この5月末に発行
されました『教育方法学研究』(日本教育方法学会紀要)第44巻に、
論文が掲載されたことです。
道徳における規範とケアの相克:「二人称的かかわり」の視点による
「規則の尊重」と「相互理解,寛容」の再定義 (村瀬公胤・岸本琴恵)
というタイトルで、自分が第一著者になる査読論文はひさしぶりかも
しれません。昨年6月の日本道徳教育方法学会で名護市教育委員会の
岸本琴恵先生が報告された事例をベースに、昨年9月の日本教育方法学会
で理論的検討を行い、投稿論文にしましたところ、採択されました。
論文の冒頭から、少し抜粋します。
*******引用*******
本研究の目的は、教育実践における二つの道徳的価値「規則の尊重」と
「相互理解,寛容」の相克について、ケアの倫理を導入することによって
これを克服し、学校が多様な個の十全な発達の場になる方途を検討する
ことである。そのために、この相克が生じた中学校の事例に基づいて問題の
構制を分析するとともに、佐伯(2017)の「二人称的かかわり」を参照
しながら、「規則の尊重」と「相互理解,寛容」の概念の再定義を試みる。
------(中略)------
「いったいいつまで甘やかせばいいのでしょうか」。臨床心理士である
本稿第二筆者が、ケース会議や教育相談の場面で、教員や関係する人々から
何度も聞いた言葉である。個々の子どもの困り感もわかるが、とはいえ、
全体の秩序に合わせることも必要ではないかという意見である。発達障害や
貧困など、いまそこに困っている子がいるときに、支え見守る姿勢を語り合う
場において、そのような発言がある。特別支援教育の導入から10年が経過し、
また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が施行されたいまでも。
------(中略)------
いまここで紹介したエピソードは、誰が正しいという話ではない。教育実践の
現場が、様々な価値観の相克の場であり、教員も関係する大人たちもみな、
せめぎあう価値観に葛藤を抱えながら、日々の判断を迫られているということ
を示している。
******引用終了******
学校の先生方なら、この抜粋からでも、一読してどのようなことが書かれて
いるか、ご想像がつくと思います。
いずれ論文データベースに掲載され、オンラインで読めると思いますが、
発行からだいたい半年~1年くらいかかるようです。
早く読みたいという方がいらっしゃいましたら、私宛てにメールをください。
郵便でお送りできると思います。
村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net
(メルマガのバックナンバーURLが変わりました)
https://j.bmb.jp/bm/p/bn/list.php?i=mon109&no=all
新しい年度が始まって2ヶ月、いかがお過ごしでしょうか。
麻布教育研究所では、新規事業が始まりました。
2019年4月、福島県の須賀川市教育委員会様と一般社団法人麻布教育研究所は、
「学校教育アドバイザリ業務委託契約」を締結しまして、法人として市内の
全小中学校の学校づくり、授業改革に貢献いたします。
昨年の10月から、アドバイザーとして関わり始めて、この4月から法人契約と
なったという経緯です。このような形の契約は、全国でも初めての例になる
のではと思います。
須賀川市教委様では、「主体的・対話的で深い学びを実現し」、「一人残らず
の子どもたちの学びを保障する」、そのために「授業と授業研究を中心とした
学校づくり」を推進していく方針です。そのお手伝いをするのが、私どもの
業務になります。
この方針は、とても貴重なものであるように思います。
ふつう、「市を挙げた取り組み」というのは、2つの型に大別されます。
一つは学力などの数値目標を掲げて、それを実現させようとする試み。
もう一つは、〇〇プランとか〇〇メソッドとか〇〇スタンダードなどを
掲げて、それを全小中学校に実践させようとする試み。
しかし、須賀川市の挑戦は、そのどちらにも与していないように思います。
上のビジョンを示すまでが市教委の役割であり、それをどのように実践で
具現化していくかは、学校の先生たちの専門性・自律性に委ねているのです。
なので、市教委の仕事は、「やっているかどうか」とチェックすることでは
なく、「できそうですか?何か困っていることはないですか?」と学校を
サポートする、市教委本来の仕事ができるようになります。「委員会が学校
にさせる」上記2つの型ではない点において、先進的かつ本質的な試みであり、
だからこそ私ども麻布教育研究所がお役に立てると考えております。
もう一つ、村瀬個人の活動としてご報告できますのは、この5月末に発行
されました『教育方法学研究』(日本教育方法学会紀要)第44巻に、
論文が掲載されたことです。
道徳における規範とケアの相克:「二人称的かかわり」の視点による
「規則の尊重」と「相互理解,寛容」の再定義 (村瀬公胤・岸本琴恵)
というタイトルで、自分が第一著者になる査読論文はひさしぶりかも
しれません。昨年6月の日本道徳教育方法学会で名護市教育委員会の
岸本琴恵先生が報告された事例をベースに、昨年9月の日本教育方法学会
で理論的検討を行い、投稿論文にしましたところ、採択されました。
論文の冒頭から、少し抜粋します。
*******引用*******
本研究の目的は、教育実践における二つの道徳的価値「規則の尊重」と
「相互理解,寛容」の相克について、ケアの倫理を導入することによって
これを克服し、学校が多様な個の十全な発達の場になる方途を検討する
ことである。そのために、この相克が生じた中学校の事例に基づいて問題の
構制を分析するとともに、佐伯(2017)の「二人称的かかわり」を参照
しながら、「規則の尊重」と「相互理解,寛容」の概念の再定義を試みる。
------(中略)------
「いったいいつまで甘やかせばいいのでしょうか」。臨床心理士である
本稿第二筆者が、ケース会議や教育相談の場面で、教員や関係する人々から
何度も聞いた言葉である。個々の子どもの困り感もわかるが、とはいえ、
全体の秩序に合わせることも必要ではないかという意見である。発達障害や
貧困など、いまそこに困っている子がいるときに、支え見守る姿勢を語り合う
場において、そのような発言がある。特別支援教育の導入から10年が経過し、
また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が施行されたいまでも。
------(中略)------
いまここで紹介したエピソードは、誰が正しいという話ではない。教育実践の
現場が、様々な価値観の相克の場であり、教員も関係する大人たちもみな、
せめぎあう価値観に葛藤を抱えながら、日々の判断を迫られているということ
を示している。
******引用終了******
学校の先生方なら、この抜粋からでも、一読してどのようなことが書かれて
いるか、ご想像がつくと思います。
いずれ論文データベースに掲載され、オンラインで読めると思いますが、
発行からだいたい半年~1年くらいかかるようです。
早く読みたいという方がいらっしゃいましたら、私宛てにメールをください。
郵便でお送りできると思います。
村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長
murase@azabu-edu.net
(メルマガのバックナンバーURLが変わりました)
https://j.bmb.jp/bm/p/bn/list.php?i=mon109&no=all