バックナンバー

  • 2024/03/31 (Sun) 13:10
    「麻の葉」第56号
  • 2024/01/31 (Wed) 20:00
    「麻の葉」第55号
  • 2023/11/30 (Thu) 23:50
    「麻の葉」第54号
  • 2023/09/30 (Sat) 17:30
    「麻の葉」第53号
  • 2023/07/31 (Mon) 13:00
    「麻の葉」第52号
  • 2023/05/31 (Wed) 23:09
    「麻の葉」第51号
  • 2023/03/31 (Fri) 15:00
    「麻の葉」第50号
  • 2023/01/31 (Tue) 22:00
    「麻の葉」第49号
  • 2022/11/30 (Wed) 23:00
    「麻の葉」第48号
  • 2022/09/30 (Fri) 20:00
    「麻の葉」第47号
  • 2022/07/31 (Sun) 07:00
    「麻の葉」第46号
  • 2022/05/31 (Tue) 20:00
    「麻の葉」第45号
  • 2022/03/31 (Thu) 23:01
    「麻の葉」第44号
  • 2022/01/31 (Mon) 23:20
    「麻の葉」第43号
  • 2021/11/30 (Tue) 23:15
    「麻の葉」第42号
  • 2021/09/30 (Thu) 23:50
    「麻の葉」第41号
  • 2021/07/31 (Sat) 22:00
    「麻の葉」第40号
  • 2021/05/31 (Mon) 23:40
    「麻の葉」第39号
  • 2021/03/31 (Wed) 20:00
    「麻の葉」第38号
  • 2021/01/31 (Sun) 22:20
    「麻の葉」第37号
  • 2020/11/30 (Mon) 21:00
    「麻の葉」第36号
  • 2020/09/30 (Wed) 16:00
    「麻の葉」第35号
  • 2020/07/31 (Fri) 11:00
    「麻の葉」第34号
  • 2020/05/31 (Sun) 21:50
    「麻の葉」第33号
  • 2020/04/30 (Thu) 21:15
    「麻の葉」第32号
  • 2020/03/31 (Tue) 21:00
    「麻の葉」第31号
  • 2020/03/01 (Sun) 23:10
    「麻の葉」書籍刊行臨時号
  • 2020/01/31 (Fri) 23:34
    「麻の葉」第30号
  • 2019/11/30 (Sat) 23:40
    「麻の葉」第29号
  • 2019/09/30 (Mon) 23:15
    「麻の葉」第28号
  • 2019/07/31 (Wed) 08:30
    「麻の葉」第26号
  • 2019/05/31 (Fri) 23:00
    「麻の葉」第25号
  • 2019/03/31 (Sun) 23:04
    「麻の葉」第24号
  • 2019/01/31 (Thu) 23:55
    「麻の葉」第23号
  • 2018/12/01 (Sat) 00:00
    「麻の葉」第22号
  • 2018/09/30 (Sun) 13:00
    「麻の葉」第21号
  • 2018/07/31 (Tue) 21:00
    「麻の葉」第20号
  • 2018/05/31 (Thu) 22:56
    「麻の葉」第19号
  • 2018/03/31 (Sat) 22:38
    麻の葉」第18号
  • 2015/11/19 (Thu) 01:47
    「麻の葉」第17号
  • 2015/08/23 (Sun) 07:25
    「麻の葉」第16号
  • 2015/01/08 (Thu) 07:15
    「麻の葉」第15号
  • 2014/09/14 (Sun) 10:33
    「麻の葉」第14号
  • 2014/04/30 (Wed) 23:42
    「麻の葉」第13号
  • 2013/12/25 (Wed) 18:13
    「麻の葉」第12号
  • 2013/09/01 (Sun) 21:01
    「麻の葉」第11号
  • 2013/06/02 (Sun) 19:04
    「麻の葉」第11号
  • 2013/04/14 (Sun) 11:30
    「麻の葉」第10号
  • 2013/03/09 (Sat) 02:24
    「麻の葉」第9号
  • 2013/01/04 (Fri) 17:59
    「麻の葉」第8号
  • 2012/12/01 (Sat) 21:18
    「麻の葉」第7号
  • 2012/10/06 (Sat) 02:14
    「麻の葉」第6号
  • 2012/09/09 (Sun) 15:16
    「麻の葉」第5号
  • 2012/08/10 (Fri) 22:59
    「麻の葉」第4号
  • 2012/08/10 (Fri) 22:55
    「麻の葉」第3号
  • 2012/05/19 (Sat) 17:33
    「麻の葉」第2号
  • 2012/04/28 (Sat) 17:41
    「麻の葉」創刊

「麻の葉」第22号

2018/12/01 (Sat) 00:00
麻布教育研究所通信「麻の葉」第22号

学校教育業界で流行った“スタンダード”という言葉について、私は
距離を置いていました。なので、これを論じたことはなかったと
思います。一つには、論じてもあまり愉快なことはなさそうでしたし、
いずれブームとともに去るのかなと思っていたからでもあります。
そのブームの渦中で、スタンダードの効力を信じている人と喧嘩する
のもつまらないことで、いずれ時が解決するだろうとも思っていました。
しかし、実際のところ、そのようには推移しなかったようです。(最近、
熊本大の苫野一徳さんが、わかりやすく描写してくださいました→
https://twitter.com/ittokutomano/status/1064840584190341121)

最も早い時期に、教育でスタンダードという言葉を使い始めたのは
米国であったかと思います(ここで学術論文なら注・引用を付記する
べきところですが)。米国では、1980年代に“Nation at Risk”で始まった
学力不信の文脈が、90年代に、子どもたちが身につけるべき事柄の一覧
としてスタンダードに帰結しました。(英国では、学校の自由選択を
可能にするためにNational Curriculumが導入されましたが、standard
という名称ではなかったはずです)
その後、教員が対象になる教職スタンダードにもこの概念が広がり、
それとともに、ドイツや日本など「危機」が煽られたところに広がって
いきました。とくに日本の場合ですと、この米国のものを輸入する形で、
教職スタンダードが先に広まったと思います。

結果的に、「学ばせること一覧」「できるようになった状況の一覧及び
そのレベル別記述によるマトリックス(表)」までが欧米のふつうの
スタンダードで、その後、日本では、「やらせることリスト」「守るべき
ルール一覧」「こうすればいいマニュアル」「我が自治体の教育理念」まで
に広がっているという現状があります。

本来であれば、standardの語源(測定の基準のために立てた旗や棒)
に遡り、この概念の意味するところを検討するべきところですが、
さしあたり、上述の混乱の様相もふまえながら、人はなぜスタンダード
に惹かれて=つけこまれてしまうのかを考えてみました。
 ・統一したい心(みんなが同じことをしているのを見ると落ち着く)
 ・難しいことを避けたい心(自分で考えるのはめんどうくさい)
 ・責任を負いたくない心(何かあってもスタンダードのせいにできる)
 ・隣と同じことをしたい心(隣の県がやっているからうちも)
 ・隣と同じことをしたくない心(○○スタンダードって、打ち出したい。
   〔だけど、できあがってみると、よそとかわり映えはしない〕)
 ・自分の思い通りに人を動かしたい心(スタンダードを楯にとって脅す)
 ・自分の非力さを直視したくない心(スタンダードがあれば指示できる)
こんなに人の弱さにスタンダードは触れるので、流行ったんだなあと
思うとともに、たぶん、スタンダードという名前でなくてもできること
がたくさんあると思うので、あともう少し経過して、冷静になる時代が
来ると私は信じたいです。

11月の私は、インドネシア・ジャカルタでの講演や北京の学会での発表が
連続しました。テーマは共通していて、教師は自分たちの実践から学び続ける
専門職にどうしたらなれるか、です。これが世界共通の教員養成・教員研修
のテーマです。日本でいま起きているスタンダード・ブームは、ちょうど
これと逆行するもので、学ばなくてもいい教員を生み出そうとしているかの
ようです。
みんなでいっしょに何かをすることは、たしかに尊いことです。でも、
ビジョンを共有し,メソッドの多様性を交歓し,教職にある幸せを分かち合う
ことと、統一のスタンダードに従い,例外を認めず,誰もが考えなくてよく
なること、この両者の間にどれほどの溝があるかについて、ほんのすこし
考える余裕があったらと思います。

さいごに、前号でご紹介した共著書、
“Lesson Study and Schools as Learning Communities: 
Asian School Reform in Theory and Practice”
が期間限定で、30%オフで買えるようになりました。
ご興味がある方は、ご連絡ください。

村瀬公胤
一般社団法人麻布教育研究所 所長