東京ビエンナーレジャーナル VOL.03
見なれぬ景色へ
2021.05.07
TOKYO BIENNALE 2020/2021

路上のおでん、路上観察(筆写撮影)

都市にダイブすると目の前に〈見なれぬ景色〉がひろがる

東京ビエンナーレには国内外から選出されたアーティストと肩を並べて一般公募から選ばれた20組のプロジェクトが参加します。国際芸術祭といえば選ばれしアーティストたちの揃い踏みが見どころですが、公募選出作家の存在は「市民がつくる芸術祭」である東京ビエンナーレの特徴をよく表しています。
私はその公募プロジェクト「ソーシャルダイブ」の企画と運営をしています。これまで美術書の編集と展覧会のキュレーションなどを通じてアートが生まれる現場をサポートしてきましたが、昨今アートの公共性とアーティストの表現の自由などが問われるなか、これまでと異なる新しい国際芸術祭づくりを目指してスタッフに仲間入りしました。
話は2年前に遡ります。東京ビエンナーレの「ソーシャルダイブ公募プロジェクト」を起動するにあたって私たちが掲げたキャッチコピーは次のようなものでした。
「ミッションは東京〈まち〉にダイブし、社会〈ひと〉と深く交わること」。
いまやアートとは作品を作って見てもらうことだけではなく、目に見えない関係性を生み出すリレーショナル・アート(関係性の芸術)や、人と人の結びつきをより良い方向に変えていくソーシャリー・エンゲージド・アート(社会関与型の芸術)といったいわゆるアート・プロジェクトが盛んです。
「ソーシャルダイブ」はもともと総合ディレクターの中村政人さんが以前から取り組んできたアートプロジェクトのことを指すオリジナルの名称でしたが、今回公募プロジェクトに掲げることで、東京のさまざまな人びとが暮らすエリアにアーティストが飛び込んで新たな発見や交流をもたらす──まるで、大きな海に飛び込んで小さな命を発見するマリンダイビングにも似たアートによる冒険や探索の合言葉になりました。
公募に集まったのはいわゆる美術のアーティストだけでなく若手建築家や音楽家、デザイナーやプランナーなどのクリエーターから一般社会人や高校生までさまざまでした。公募作家は内々に「ソーシャルダイバー」という呼び名を自称して交流ミーティングやワークショップを重ねながら実社会へのダイビングの準備をしてきましたが、いよいよ大海に乗り出すぞというところで昨年コロナ禍に見舞われてしまったのです。
人と人をつなぐソーシャリー・エンゲージメントとは正反対に、コロナの感染予防のため必要になったのは人と人とが距離を置くソーシャル・ディスタンス。
人々が集まって体験を共有するというこれまでのやり方がまったくの封じ手となってしまったなか、ソーシャルダイバーたちはそれぞれに企画の再検討に追われることになりました。
現代音頭作曲家の 山中カメラはこれまで国内外の各地を訪れ、地域の人たちと共同で現代的な盆踊り「ボンダンス」を創作してきましたが、昨年はコロナ禍によって夏祭りが中止になって、予定していた東京を舞台に新しい東京音頭が作るプロジェクトもすっかり頓挫してしまいました。
しかし、盆踊りとは本来あの世の死者をこの世にお迎えしていっしょに踊るダンスだという原点に帰り、コロナで亡くなった人びとへの鎮魂曲として「コロナのない世界」を願う《WITHOUT CORONA ONDO》を作詞・作曲。 野営というユニットでビエンナーレに参加する現代美術家の海野貴彦さんがプロデューサー役となり、2020年夏にはVRアーティストのゴッドスコーピオンさんとのコラボレーションとしてインターネットの仮想空間に構築した特設会場でアバターになった観客が輪になって踊るというVRイベントを開催して盆踊りファンをも驚かせました。
その一方で、全国から郵送してもらった手製の紙人形とともに演奏する音頭をライブ配信するといった試みは、フィジカルな身体性とデジタルなメディアを結ぶ表現となりました。コロナ禍で生まれた《WITHOUT CORONA ONDO》は東京ビエンナーレのメイン会期中には上野エリアで展示やイベントとしてあらためてお披露目する計画です。
コロナ禍によってリモートワークが進むなど私たちの日常のリアリティーが急速に情報ネットワークと融合する中、「ソーシャルダイブ」が向かい合う社会も大きく変容し拡張していることを感じます。
ビエンナーレ参加作家として加わった AR三兄弟はAR(拡張現実)技術によってスマートフォンで鑑賞する作品の準備を進めています。都市空間と情報空間が混ざり合う新しい時代の新しい芸術祭が始まろうとしています。
この一年の間に「ソーシャルダイブ」は公募プロジェクトの合言葉としてだけではなく、市民参加の学びの場 ソーシャルダイブ・スタディーズなど東京ビエンナーレのさまざまな活動をつなぐ理念的なキーワードにも成長しました。
今度は、鑑賞者のあなたがソーシャルダイバーとなって東京に飛び込んで新しい光景と出合う番です。
楠見清
東京ビエンナーレ2020/2021ソーシャルダイブ公募プロジェクトディレクター


CURRENT & UPCOMING INFORMATION

前売券発売開始!

4月26日月曜日、7月開催に向けて前売券の発売を開始しました!
パスポート前売券(4月26日~6月30日)一般2000円、学生1500円です。
合わせて公式サイトも更新しましたので内容をチェックして頂き、お得な前売券の購入を是非ご検討下さい。
https://tb2020.jp/ticket/

「玉川上水46億年を歩く」

リー智子さんと一緒に、玉川上水の取水口(水源)の羽村取水堰から半蔵門までの46kmを、地球史46億年と見立て歩くプロジェクト。

長い地球史の中で人類の歴史は20万年。46kmの中でたったの2メートルです。
地球におけるヒトという存在は一体何か、歩きながら考えること。
頭では理解しているつもりのものを身体性を通して改めて感じることの大切さ。
東京ビエンナーレ2020/2021で、その記録をお見せします。

プロジェクト:

Facebook:


村山修二郎 「動く鉢」 オーナーとして植物を育てていただける方を募集しています!
(6月4日締切)

「動く土 動く植物」プロジェクトとは、都市における土や植物とのつながりと寄り添い、コミュニケーションのツールとして「動く鉢」を使った活動を展開していくアートプロジェクトです。
本プロジェクトの第2歩期間「動く鉢」オーナーとなり、家族・パートナーとして育てていただける方を募集します!
https://tb2020.jp/news/202104_murayama/

5月8日トークセッション|
デザインプロジェクト 「デザイン視点からアートプロジェクトを考える
https://tb2020.jp/ongoing/designtalk/

メンバー募集|アートを実装するスクール「ソーシャルダイブ・スタディーズ」開講!

ソーシャルダイブ・スタディーズ(以下、SDS)は、街のさまざまな場やコミュニティに飛び込んで、アートプロジェクトを起こし、リードする「街のプレーヤー」を育成する3ヶ月半のプログラムです。

第1回説明会|5/19(水)19:00~20:30
第2回説明会|5/22(土)14:00~15:30
https://tb2020.jp/news/sds/

RECOMEND INFORMATION
東京ビエンナーレが発信する情報をピックアップしてご紹介します。

東京ビエンナーレ2020/2021の公式noteです。

参加アーティストやディレクター、市民委員会の方々等のインタビューや対談、寄稿記事、また作品の進捗などをご紹介いたします。

批評とメディアの実践のプロジェクト

東京ビエンナーレのプロジェクトの一つとして「リレーションズ:批評とメディアの実践のプロジェクト」を立ち上げます。このプロジェクトは、主としてウェブやソーシャルメディアを中心にデジタル化とグローバル化の時代の批評とメディアのあり方を考えると同時にその実践を行うことを目指します。

アートにまつわる言葉を編み、文字を綴ることを専門的に学ぶ学校

アートにまつわる言葉を編み、文字を綴ることを専門的に学ぶ学校「アートライティングスクール」のnoteサイトです。受講生の記事を中心に公開します。本校は「東京ビエンナーレ2020/2021」のソーシャルプロジェクトのひとつで、プロジェクトディレクターは美術評論家の福住廉です。

TOKYO BIENNALE note
TB report Hogaleeさん「Landmark Art Girl」制作・撮影日記
東京ビエンナーレ2020/2021の第一弾のプロジェクトとしてアーティスト・Hogaleeさんの「Landmark Art Girl」が、神保町古書店街、カレー屋街、スポーツ用品店街から一歩入った場所でありながら下町風情の残る神田小川町に建つ、宝ビル壁面に完成しました!靖国通りに面したビルの裏路地側の壁面に壁画が描かれています。

TOKYO BIENNALE note
INTERVIEW:Hogalee
東京ビエンナーレ2020/2021において、最初に誕生した作品がHogaleeによる「Landmark Art Girl」だ。Hogaleeは学生時代より描いていたマンガを絵画的な表現にするため、2003年頃より女性のモチーフで絵を描き始める。Hogaleeが描く「オンナノコ」は、イラストレーション的な表現でありながら、その時代の女性像を色濃く反映させる。彼が考えるカタカナの「オンナノコ」とはどういう存在なのか、話をうかがった。(聞き手:上條桂子)

RELATIONS
アートと環境ー人類の未来
アレクサンドル・ポノマリョフ
聞き手・翻訳 鴻野わか菜
日本の対岸にあるロシアの港湾都市ウラジオストクでは、1998年以降、ウラジオストク国際ビエンナーレが開催されている。ウラジオストクでは、アートと環境――地域の自然、気候、歴史、文化、伝統――はどのように結びついているのか。ウラジオストク国際ビエンナーレのコンセプトや特徴は何か。海外のキュレーター(2017年:項苙苹、2022年:保坂健二朗)を招聘するメイン・プログラムやその他のプログラムの目的とは? 同ビエンナーレのコミッショナーであるユーリヤ・クリムコが語る。
Photo:アレクサンドル・ポノマリョフ バフィンの像 2006 北極圏でのプロジェクト


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東京ビエンナーレ賛助会員のお申込について
「一般社団法人東京ビエンナーレ」では、東京ビエンナーレの運営・実施を支える「賛助会員」を募集いたします。市民を主体に東京で立ち上がる、新たな動きにご賛同頂ける個人・法人の皆様のご参加を心からお待ちしております。様々な形で東京ビエンナーレを知りながら、応援いただければ幸いです。

このメールは、一般社団法人東京ビエンナーレ、東京ビエンナーレ事務局と名刺交換させていただいた方にお送りさせていただいております。
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東京ビエンナーレ2020/2021
見なれぬ景色へ ―純粋×切実×逸脱―

開催期間:2021年7月~9月
※会期は変更になる場合があります。

一般社団法人東京ビエンナーレ