東京ビエンナーレジャーナル VOL.15
東京ビエンナーレ2023
「リンケージ  つながりをつくる」
TOKYO BIENNALE 2023|Create Linkage
2023.7.2

東京の街に潜む原石

みなさん初めまして、東京ビエンナーレ2023のアートディレクションを担当しているデザイナーの尾崎友則です。*(崎は、正式には山へんに立+可)東京ビエンナーレには、昨年末に開催されたプレイベントである『はじまり展』から参加しています。アートディレクションという役割が芸術祭とどのように関わっていけるのか、これからの展開も楽しみです。今回、東京ビエンナーレ2023のジャーナルとして、コラムの依頼を頂いたので、先日公開となったメインビジュアルの制作に関してお話ししたいと思います。

芸術祭の顔となるメインビジュアルの制作にあたり、最初に今の東京を俯瞰して見てみました。

私の故郷は四国の香川県で、東京の美大を卒業してから数年東京で働いたあと、北陸新幹線の開業とともに金沢に移住しました。金沢で3年近く生活した後にまた東京に戻り6年が経とうとしています。香川にはうどん、金沢には伝統工芸といった、イメージしやすい街の特徴がありますが、東京のイメージとなると、なんだか曖昧な答えになってしまいます。さまざまな文化が織りなす「東京のイメージ」は、その圧倒的な情報量ゆえに、簡潔に表すことの難しさを感じます。

近代的な高層ビルや建物、AIといったテクノロジーを駆使して生活を一気に変化させるような未来型のコンテンツなど、今まで想像もできなかったような新しく刺激的なものが日々生まれています。その一方で、高層ビルの片隅にひっそりと佇む歴史的な風景や、街のお祭りのような代々受け継がれてきたものもそこには存在します。それは、江戸時代から積み重ねてきた中心部としての東京がもつ独特の多様性であり、だからこそ一言では言い表せません。

どちらも東京の魅力ではありますが、歴史的な魅力を形作ってきた背景は大きな時代の流れによって埋もれてしまっているのが、東京という都市の一つの側面だと感じています。

メインテーマである『リンケージ つながりをつくる』という言葉には、私たちと私たちのまわりの環境や、記憶のつながりを捉え直すように。アートと人・アートと街がつながることで、アートが媒介となり人と街を繋げるように。また市民参加型の芸術祭として、アートが持つ社会的価値を提示しようという意志が込められています。

リンケージと名付けられたそれぞれのプロジェクトや作品には、背景に東京の街ならではのキーワードが隠されています。例えば「下町文化」や「災害」といった地域的な性質を持つもの、「産業」や「バーチャル空間」といった人類が直面している課題が見えてくるものまで、一つ一つの作品をじっくり見ることで、東京の街に秘められた関係性や、私たちと街とのつながりを発見することができるでしょう。

このような前置きがありつつ、メインビジュアルにどのような思いを託すべきか、クリエイティブディレクターの佐藤さんやコミュニケーションディレクターの並河さんと、今年のメインビジュアルの輪郭を描き始めました。そしてディレクターのみなさんとの話し合いをする中で、大きなメインビジュアルの方向性が見えてきました。
メインビジュアルの考え方
1. 「リンケージ  つながりをつくる」を体現するイメージであること
2.   東京の街にダイブする芸術祭を表現すること

この2つがメインビジュアルを考える上での大きな軸となりました。
「リンケージ  つながりをつくる」を体現するためには、不可視化された「つながり」を、印象として可視化する表現が必要だと感じていました。アートによって生み出されるつながりは、物質的なつながりだけではなく、感じることによって気付かされる気持ちと気持ちのつながりだと思ったからです。

Photo by 飯塚麻美
東京ビエンナーレ2023のリンケージの一つ、『ジュエリーと街 ラーニング』という企画が御徒町を舞台に進められています。御徒町は周辺に寺社仏閣が多い街で、仏具や銀器の飾り加工を行う職人が多く住んでいました。手先の器用な職人が、その技術を宝飾品にも生かしたことからジュエリータウンとして広く開かれるようになった場所です。

このリンケージでは、一般市民の参加者が専門店や職人を訪ね、貴金属や宝石の多様性を学び、自分の家に眠っている古い装身具をコンテンポラリー・アクセサリーにつくりかえます。参加者がコンテンポラリー・アクセサリーという作品を作り出す過程で、アシストするアーティストは表現の媒介者として並走し、時間を超えた記憶のつながりを生み出します。

そのプロセスはまさにリンケージを象徴する一つのモデルです。そこで着目したのが、宝石の輝きでした。アーティストが街に介在し作品制作に携わる行為は、まるで宝石の原石を磨くような行為であり、そこから放たれる輝きが街や表現の魅力となって可視化される。その輝きをメインビジュアルとして表現することで、「街の新しい見方を創出し芸術祭と市民がつながること」を指し示せないかと考えました。

今あらためて見ると、宝石の輝きを写真のボケ感によって抽象的に表現することで、パッと見ると物質ではない何かと何かが視覚表現の中で繋がり、東京の街にダイブする印象を、多層的で複雑な表情をした輝きが表しているように感じます。

Photo by: 池田晶紀
このメインビジュアルは実際にジェリータウン御徒町のジュエリーショップ「セレナ」さんで取り扱っている宝石の原石をお借りし、参加作家のお一人である写真家の池田晶紀さんに撮影いただきました。

ここまで東京ビエンナーレ2023のメインビジュアルの制作に関する私的な考察を書いてきましたが、あとは受け手のみなさんがこのビジュアルを見て、東京ビエンナーレ2023に興味を持っていただき、参加していただけるかどうか。そこから、東京ビエンナーレ2023と「つながる」最初の一歩が始まります。

いよいよ夏会期がはじまりますので、ぜひ参加してみてください。人と街とのつながりをアートが可視化する「見なれぬ景色」を、そして芸術祭と市民がつながったときに広がる美しい東京の輪郭を、本芸術祭の参加を通して、より一層感じていただければと思います。

アートディレクター 尾崎友則

TOKYO BIENNALE NEWS

7月2日(日)「私たちは、顔のYシャツ」説明会+懇親会開催!
東京ビエンナーレ2023のリンケージのひとつ「私たちは、顔のYシャツ」では、一緒に制作に関わってくださるメンバーを募集いたします。
 > 詳細は こちら から

「パブローブ:100年分の服」への服の寄贈を募集中
アーティストの西尾美也による、だれでも利用できる「服の図書館」のような公共のワードローブを作り出すプロジェクトでは、震災から100年の間に人々に着られた服を募集しています。
 > 詳細は こちら から


東京ビエンナーレ賛助会員のお申込について

「一般社団法人東京ビエンナーレ」では、東京ビエンナーレの運営・実施を支える「賛助会員」を募集しております。市民を主体に東京で立ち上がる、新たな動きにご賛同頂ける個人・法人の皆様のご参加を心からお待ちしております。様々な形で東京ビエンナーレを知りながら、応援いただければ幸いです。

TOKYO BIENNALE SNS

東京ビエンナーレに関する最新情報は、各SNSで発信中!
ぜひフォローしてご確認ください。


このメールは、一般社団法人東京ビエンナーレ、東京ビエンナーレ事務局と名刺交換させていただいた方にお送りさせていただいております。ニュースレターをご希望されない方は こちら からご連絡ください。
本メールアドレスは送信専用となりますので、返信いただきましてもご回答できかねます。ご了承ください。
バックナンバーは こちら からご覧ください。

一般社団法人東京ビエンナーレ