東京ビエンナーレジャーナル VOL.07
見なれぬ景色へ
2021.06.18
TOKYO BIENNALE 2020/2021

Photo by Dafna Talmon

臨時かつ不足だらけでも、作家たちの五感となること。

日本への来日が叶わず、東京の空気はおろか、自身の展示会場すら肌で感じることができない海外作家たちにとって、「海外アーティストコーディネーター」として東京ビエンナーレに参画した私の役割は、いつしか役不足ながらも「作家たちの臨時の五感となること」へと変化していきました。
私が担当する海外アーティストは、91ヶ国、1500名にのぼる公募の中から選ばれた、個性豊かな12組です。彼ら・彼女らのミッションは「東京の街にダイブし滞在制作を行うこと」。東京の街を自身の足で歩き、空気を肌で感じ、人々との交流を通して、作品に形を与えていく予定でした。しかし、コロナ禍で状況は一変。刻々と変化する日々の中、強まったり弱まったりする来日可能性にやきもきしながら、何百通ものメールを交わし、絵文字や雑談で「遠距離友情」を深め、展示プランを進めていくこととなりました。
豊かな感性で街の空気を吸い、自身の手で作品を完成へと導く予定だった彼らが頼ることができるのは、「過不足だらけの私の五感」となったわけですから、皆一様に不安しかなかったと思います。それでも、彼ら・彼女らの人間力は凄まじく、まっすぐな心で、私を信頼し、自分の手で触れ、見た風景であるかのように、私から伝達される情報を自分のものとして制作に活かしてくれました。そんな信頼に応えようと、 ディレクター陣の知恵を借りるために奮闘し、東京の街の手触りや会場の空気を、できるだけ鮮明な情報として届けられるよう、今日まで努めてきたつもりです。
残念ながら、最後の最後で来日が叶わなくなってしまった ペドロやアーダランをはじめとした作家や、経済状況の変化によってやむをえずアーティスト活動の継続が困難となった方や、私の力不足で作品発表まで進むことができなかった作家が半分となってしまいましたが、それでもなんとか、ここまで頑張ってくれて彼ら・彼女たちの作品は、いよいよ東京の街に出来事を起こしていきます。
ニューヨークの アリーナとジェフは、 東京の一般家庭の夕食へ「Zoom訪問」し、距離と文化と言語の壁を超えて、、見知らぬ人々とのコミュニケーションの可能性に挑みます。イスラエルはテルアビブのダフナは 「ギフトプロジェクト 東京2021」を通して、 不用品を誰かにとっての心踊るギフトへと転換。彼女のダイナミックで茶目っ気たっぷりなパーソナリティーはスクリーン越しでも、もちろん健在です。そして台湾の フェイハオは、ロックダウン下の台北の狭いアパートの中で、今まさにイメージ通りの映像を捉えようと試行錯誤しています。
全作家を日本に迎え、ひとりひとりの豊かな感性で切り取った東京を作品の中に感じ取ることができないのはもちろん残念ではありますが、遠隔だからこそ、彼ら・彼女らの五感が他者に一時的に預けられたからこそ、今回の出展作品に付け加えられた何かがあるのかもしれない、あったら嬉しく思っています。
東京ビエンナーレ開幕まであと1ヶ月!ぜひ皆様の目でお確かめください。
高橋ユカ
東京ビエンナーレ2020/2021 「ソーシャルダイブ」アーティスト・イン・レジデンスプロジェクト
海外アーティストコーディネーター

CURRENT & UPCOMING INFORMATION

前売券発売中!

お得なパスポート前売券(4月26日~6月30日)発売中です!
一般2,000円、学生1,500円です。
合わせて公式ウェブサイトも更新しましたので内容をチェックして頂き、お得な前売券の購入を是非ご検討下さい。

参加者募集!手放した不用品が誰かにとってのギフトになる。モノの循環プロジェクト「ギフトプロジェクト 東京 2021」

何年も家を持たずに放浪してきたイスラエル在住のアーティスト、ダフナ・タルモンは、自由になるための新しい仕組みを考え続けててきました。

「自由を求めて試行錯誤していくうちに、自身の人生をかたちづくる上でモノが占める比重の大きさに気がつきました。引っ越しをする度に、不要でありながらも家から家へと移動していくのです。不用品であると気づいたモノを手放し、梱包をすると本来のアイデンティティを失い、ギフトとなって誰かをわくわくさせるモノになるという過程を、ワークショップやインスタレーションの参加を通じて経験することができます。」(ダフナ・タルモン)

本プロジェクトは、参加者がモノを手放すところから始まります。
自宅の中を歩き回り、読まなくなった本、着なくなった服、食器棚の奥底に放置されたもお皿など、不用品を見つけましょう。
あなたが手放す「不用品」は、本プロジェクトの中で施されるラッピングをまとい、東京ビエンナーレ会期中のインスタレーションを通して、誰かをわくわくさせる「ギフト」へと姿を変えていきます。
モノが循環する旅へ、ぜひご参加ください。

募集期間 2021年6月7日(月)~7月4日(日)


【求む!ボランティアタッフ|募集開始】

国際芸術祭「東京ビエンナーレ2020/2021」では、制作や広報、会期中の運営サポートをお願いできるボランティアスタッフを募集します。
・アーティストの制作サポート
・会場運営サポート
・地域の人々に向けた広報サポート
・会期中のイベント運営サポート
などなど

■応募締切
2021年6月22日(火)17時まで ※定員になり次第終了


RECOMEND INFORMATION
東京ビエンナーレが発信する情報をピックアップしてご紹介します。

東京ビエンナーレ2020/2021の公式noteです。

参加アーティストやディレクター、市民委員会の方々等のインタビューや対談、寄稿記事、また作品の進捗などをご紹介いたします。

批評とメディアの実践のプロジェクト

東京ビエンナーレのプロジェクトの一つとして「リレーションズ:批評とメディアの実践のプロジェクト」を立ち上げます。このプロジェクトは、主としてウェブやソーシャルメディアを中心にデジタル化とグローバル化の時代の批評とメディアのあり方を考えると同時にその実践を行うことを目指します。

アートにまつわる言葉を編み、文字を綴ることを専門的に学ぶ学校

アートにまつわる言葉を編み、文字を綴ることを専門的に学ぶ学校「アートライティングスクール」のnoteサイトです。受講生の記事を中心に公開します。本校は「東京ビエンナーレ2020/2021」のソーシャルプロジェクトのひとつで、プロジェクトディレクターは美術評論家の福住廉です。

TOKYO BIENNALE note
TALK: 内藤 礼×谷口昌良×小池一子
東京ビエンナーレの参加作家3名に話を伺うTOKYO BIENNALE TALKシリーズ。第4弾は、参加作家の内藤礼、ギャラリー「空蓮房」の谷口昌良、そして小池一子の3名だ。内藤礼は、糸や布といった繊細な素材を用いたインスタレーションで、ものと空間、環境と鑑賞者を対話に誘うような作品を制作。谷口昌良は、僧侶、写真家という顔を持ち、東京・蔵前の長応院内に「空蓮房」という空間を設け、作家の展示活動をする。小池一子は、80年代から美術のみにとどまらないオルタナティブな活動をし、本芸術祭では内藤礼、宮永愛子、柳井信乃の3人の女性アーティストが参加する「Praying for Tokyo 東京に祈る」のキュレーターと総合ディレクターを務める。会場提供をする谷口さんの立場からの東京ビエンナーレへの期待、小池さんが作品に込めた「祈り」、内藤さんの作品から感じられる生への祝福……。鼎談は、内藤礼さんの作品が展示される場所「空蓮房」のある長応院にて行われた。
(対談日/2021年4月 聞き手・文:上條桂子、編集協力:中村志保)


SDSノート_01
「企業がアートにかかわるとき」
こんにちは。 ソーシャルダイブ・スタディーズ(以下 SDS)、コーディネーターの工藤大貴です。本取組では、街とアートの接点や媒介をつくりだす「プレイヤー」を育むことを目指しています。3ヶ月半をかけて、第一線のゲストによるレクチャーやアーティストの制作サポート、最終的には1人1人が起案したアートプロジェクトの発表までを行います。あらゆる意味で街へ、アートへ、人の渦へダイブしていきます。

5月29日(土)、第1回レクチャーとともにキックオフしたSDS。初回のゲストは、三菱地所(株)より金城敦彦さんと、(株)良品計画より宮尾弘子さんでした。

RELATIONS
21世紀のアート/アクティヴィズム/ジェンダー
清水知子
リンダ・ノックリンが「なぜ女性の大芸術家が現れないのか?」と書いたのは1971年のことだった。それから50年の歳月がたち、いまアートの世界において何が起きているのだろうか。アートとアクティヴィズムの「あいだ」を結ぶ複数の関係、あるいはアート・アクティヴィズム、アーティヴィズムと呼ばれる近年の動向をジェンダーという視点から捉え直すとき、そこには何が見えてくるのだろうか。

 クレア・ビショップは『人工地獄』のなかで、20世紀以降の芸術の歴史を「参加」という観点から捉え直した。1917年前後の「歴史的前衛」、1968年に象徴される「復活した前衛」、そしていま私たちは、1990年代と2000年代に第三段階を迎えた「社会的転回」と呼ばれる時勢のなかにいる。

 こうしたなかで、「アート」と「アクティヴィズム」の「あいだ」は、これまでとは異なるタイプの実践によって結び直されようとしている。たとえば、美術批評家のボリス・グロイスは「アート・アクティヴィズムについて」(2016)のなかで、近年のアーティストによるアクティヴィズムを今の時代の中心となる新しい重要な現象として論じた。これに対して、グレゴリー・ショレットは「非情な美学」(2016)において、段ボールのプラカード、反対運動のポスター、ZINEといった表現活動によって、美術館の制度や権威を拒みながら社会に介入する動きを「ソーシャル・ムーブメント・カルチャー」と呼び、グロイスの議論に疑問を投げかけている。
カバー画像:“Pussy Riot at Lobnoye Mesto on Red Square in Moscow”, January 20, 2012 (c) Denis Bochkarev, (Licence under CC BY-SA 3.0)


アートライティングスクール
夢のつづき
大島有貴(文+写真)
iphoneと対話をしている。彼の制作中の動画を見て、そう感じた。佐藤直樹。彼はその小さな画面を見ながら、木板に木炭でひたすら絵を描く。最初はアーツ千代田3331の前にある大きな樹を描き始めた。その後、さまざまな場所でピンと来た植物や自然をiphoneのカメラに収め、同じように描き続け、支持体を横につなげている。まるで巻き絵のような作品だ。今ではその横幅は205mになるが、制作はまだ止まらない。…

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東京ビエンナーレ賛助会員のお申込について
「一般社団法人東京ビエンナーレ」では、東京ビエンナーレの運営・実施を支える「賛助会員」を募集いたします。市民を主体に東京で立ち上がる、新たな動きにご賛同頂ける個人・法人の皆様のご参加を心からお待ちしております。様々な形で東京ビエンナーレを知りながら、応援いただければ幸いです。

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東京ビエンナーレ2020/2021
見なれぬ景色へ ―純粋×切実×逸脱―

開催期間:
2021年7月10日(土)~9月5日(日)

一般社団法人東京ビエンナーレ