東京ビエンナーレジャーナル VOL.10
見なれぬ景色へ
2021.11.30
TOKYO BIENNALE 2020/2021

photo by ただ(ゆかい)

東京の〈まち〉はどこか?

東京ビエンナーレ プロジェクトコーディネーター の川上智子です。
東京ビエンナーレ2020/2021が閉幕したのも束の間、各所への御礼、報告、さらには次年度にむけての企画書作りがはじまっています。そんな中何度も目にするのは、「東京の〈まち〉を舞台に」「〈地域〉とともに作り上げる」など、〈まち〉や〈地域〉という言葉です。
 
東京の〈地域〉の人ってどこにいるのでしょうか。〈まち〉ってどこでしょうか。
 
わたしは高層ビルで白い壁とパソコンに囲まれたオフィスで働くIT系の会社員でしたが、今、自分の暮らし・住む地域にのめり込んで街をおもしろくしたい、それを間近で実感したい、という思いで2019年より東京ビエンナーレに関わることになりました。
 
志望動機に〈地域〉という言葉をいとも簡単に使っていたものの、当時のわたしは自宅に届く区報を広げたり、帰り道に近所の掲示板を立ち止まってみたりしても、なんだか自分とは関係のないことのように思えてしまい、自分が地域の一員であるという実感が湧いていませんでした。「地域とかかわる」という文字面では、東京で暮らす中ではなかなか遠い存在でした。
 
2年間関わるなかで東京ビエンナーレは、〈地域〉の解像度を上げてくれたと感じています。
 
例えば、 天馬船プロジェクトでは、小さな木舟を流す神田川沿いの50を超える町会長さんたちに電話をかけ、当時は馴染みのなかった神田の地名をたくさん覚えました。電話越しの話し振りから町会同士で会話が生まれていることも実感しました。実施においても、江戸時代からの歴史があり、地元代表とも言える組合の知恵と経験に多く助けていただきました。 いなせな東京Projectでは、写真作品のキャプションを整理したり、案内状を封筒に入れたりしながら、一つの町名でもこんなにもたくさんのまちの顔があるということに驚きました。まちを歩きながら、お店の暖簾をくぐった先にあるその顔や暮らしぶりを思い浮かべて現場を行き来しました。
 
こうして、馴染みのある場所が次第に広がっていき、自分ごととして考える〈地域〉が具体的になってきました。
 
自分の足でいくつもの作品をめぐり、その場所場所への想いが乗ると、自分の中の「〈地域〉のかかわり」が広がります。芸術祭を通じて、自分の中の〈地域〉の感覚を広げることで、街やそこでおこる出来事や営みを見ておかなければならないような気持ちになります。
 
いま、東京ビエンナーレでの展示作品のほとんどがなくなってしまいましたが、〈まち〉は今もそこにあります。そこへ足を踏み入れる楽しさをこの芸術祭を通じて味わっていただけていれば嬉しい限りです。私自身これからももっと新しい場所へ足を運び、人と関わり、惜しみなく「〈地域〉との関わり」を深く広くしていきたいと思っています。
川上 智子
東京ビエンナーレ2020/2021 プロジェクトコーディネーター

CURRENT & UPCOMING INFORMATION

12/20(月)・21(火) トークイベント開催「RELATIONS 2 days Online Event-アートにおける多言語状況と翻訳(不)可能性」
東京ビエンナーレの企画のひとつ『RELATIONS:批評とメディアの実践のプロジェクト』ではオンライントークイベントを開催します。
アートにおける多言語状況とはどういうものなのか。多言語間の翻訳は何を生み出し、何を失わせるのか。コロナ禍において私たちはナショナルな言語を超えたコミュニケーションをどのように組み立てることができるのか。2011年から小倉、東京、沖縄、重慶、バンコク、ジョグジャカルタ、台湾、シンガポールなどアジアの都市を結んでアートにおける多言語状況の(不)可能性を模索してきたHotel Asia Projectを手がかりに、コロナ禍におけるアジアにおけるアートのトランスナショナルなネットワークを考えます。
日時:2021年12月20日(月)・21日(火)20:00-21:30
参加方法など詳細は、RELATIONS ホームページで近日発表します。
https://relations-tokyo.com

東京ビエンナーレ2020/2021 会期を終了した現在も見られるプロジェクトをご紹介します。

中村政人「優美堂」
再開発が急激に進み、個人商店がつぎつぎと閉店を強いられている神田小川町で、コミュニティアートスペースとして息を吹き返した額縁専門店優美堂。額縁を活用した展覧会などを行っています。
「ニクイホドヤサシイ / 千の窓」展02
2021年10月1日(金) - 12月19日(日)

住所:東京都千代田区神田小川町2丁目

詳細はウェブサイトをご覧ください。
https://yubido.tokyo/exhibition02.html

photo by ただ(ゆかい)

Hogalee「Landmark Art Girl」
靖国通りに面した神田小川町・宝ビルの裏路地側の壁面に、壁画「Landmark Art Gir」を制作。大都会の路地裏が巨大なオンナの子がほほ笑む異色の空間に。壁に近づいて写真を撮ってみるとその大きさが実感できます。
 
住所:東京都千代田区神田小川町1-6-1 宝ビル

photo by 池ノ谷侑香(ゆかい)

O JUN 「絵と目」
丸の内仲通り側から建物を見上げると、そこには3点の異なる大きさのアートワークがあしらわれています。建物内はカフェと物販があり、ゆっくりとしたひと時をお楽しみいただけます。
 
住所:東京都千代田区有楽町1-10-1 有楽町ビル1F 有楽町micro food & idea market 
 
詳細はウェブサイトをご覧ください。
https://tb2020.jp/project/picture-and-eyes/

photo by ただ(ゆかい)

RECOMEND INFORMATION
東京ビエンナーレが発信する情報をピックアップしてご紹介します。

東京ビエンナーレ2020/2021の公式noteです。

参加アーティストやディレクター、市民委員会の方々等のインタビューや対談、寄稿記事、また作品の進捗などをご紹介いたします。

批評とメディアの実践のプロジェクト

このプロジェクトは、主としてウェブやソーシャルメディアを中心にデジタル化とグローバル化の時代の批評とメディアのあり方を考えると同時にその実践を行うことを目指します。

アートにまつわる言葉を編み、文字を綴ることを専門的に学ぶ学校

アートにまつわる言葉を編み、文字を綴ることを専門的に学ぶ学校「アートライティングスクール」のnoteサイトです。受講生の記事を中心に公開します。プロジェクトディレクターは美術評論家の福住廉です。



TOKYO BIENNALE note
COLUMN:伝統と発展の交差点にあるもの/道明葵一郎
私は台東区上野で有職組紐 道明(ゆうそくくみひも どうみょう)という伝統工芸の組紐店を営んでおります道明葵一郎と申します。現在私で10代目となります。東京ビエンナーレにはエリアディレクターという立場で開催地域とアーティストを結び付ける役割として関わらせていただいております。私の店は上野で360年ほど組紐の製作と販売を続けておりますが、私たちがよりどころとする組紐についての技術や知識、そして商売を続ける上での価値判断や習慣といったものは、過去からの蓄積にその多くを負っています。


RELATIONS
特集巻頭インタビュー「アートそのものがアクティヴィズムであり、社会を変えていく」(聞き手:清水知子)
北原恵
1994年のゲリラ・ガールズ論に始まるアート・アクティヴィズムの連載は、『アート・アクティヴィズム』(1999)、『撹乱分子@境界』(2000)、そして編著『アジアの女性身体はいかに描かれたのか』(2013)へと展開し、まもなく100回を迎えようとしています。アート・アクティヴィズムを研究するきっかけはどのようなものだったのでしょう。
 ゲリラ・ガールズは、私にとっては大事な連載の始まりだったんです。...

カバー画像:チョン・ジョンヨプ《最初の晩餐》部分 2019年 oil, acrylic on canvas 50×100cm 北原恵撮影


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東京ビエンナーレ2020/2021
見なれぬ景色へ ―純粋×切実×逸脱―

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