人間を超えるAI時代「問いベースの教育に」 安宅和人慶應大教授

人間を超えるAI時代「問いベースの教育に」 安宅和人慶應大教授
今後の社会の在り方について話す安宅教授(YouTubeで取材)
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 文科省は3月24日、「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」の第3回を会場とオンラインのハイブリッドで開催し、慶應義塾大学の安宅和人教授がこれからの社会像や、求められる能力などについて話した。安宅教授は「人間を超えるAIが出てきており、AIの発達によって人とうまく関わる能力が、今後さらに重要になってくる」と強調した。委員からはそうした時代において生身の教師の存在意義を問う声が上がり、安宅教授は「リアルな体験やリアルな空間なしに、人間が育ったり、変容したりすることはない。だからこそ、生身の教師の存在は極めて重大だ」と指摘した。

 安宅教授はChat GPTなどを例に、「今は人間を超えているAIが出てきている。特定のAIモデルでは、学習能力で一定の閾値を超えると劇的に性能が変わるという質的変化が起こり始めている。これは例えば語学学習である日を境に急に聞き取れるようになるような現象だ」と、今の時代について説明。「AIの発達によって、インターパーソナルスキル、つまり他者とうまく関わる能力が本当に重要になってくる。1人で机に向かってやっているようなことでは駄目だ。また、自分で意味のある問いを立てられない人、つまり指示待ち人材の時代は終焉(しゅうえん)する」と話した。

 今後必要となってくる能力については、▽社会に課題を感じて、切り拓く力▽人と人との関わり合いから現状を知り、価値提供の方向性を見いだし、人を動かす力▽つくりたい未来のために、必要なさまざまな人を巻き込み、問いを投げ掛け、知恵を生み出す力▽さまざまな知恵を一つにつなぎ形にしていく力▽変化の激しい時代において、何度でも人生をリノベイトできる力▽言語化し、人に伝えられる力――などを挙げた。

 同時に「今、社会を変えていっている人の多くは、小中学校にうまくなじめなかった人だ。そういう人たちこそ、社会に課題を感じており、そういう人たちをつぶさない社会が必要ではないか」と訴え掛けた。

 また、コロナ禍の日本のデータの読み方や対応の在り方などを例に、「今の日本では、ファクトや論理よりも『空気』の方が重い」と批判。「空気で判断するような人を育てないことだ。ファクトから判断できる人を育てないと意味がない。その基礎的なマインドを高校卒業までにやるべきだ」と強調した。

 教員の在り方についても、「大人や社会はこういうものだという言い方をせずに、子供と正しく向かい合うこと。そして、確実な知識を教えることに価値があるのではなく、なぜそれが確定的な知識になったのかを教えることの方がはるかに大切だ。答えベースではなく、問いベースの教育にしていく必要がある」とした。また、変化の激しい予測のできない時代において、学習指導要領の改訂が10年に1回では遅過ぎると指摘。「最低3年に一度は見直すべきだ」と要望した。

 こうした安宅教授の話に対し、秋田喜代美委員(学習院大学文学部教授)からは、「『教える』ということをどう考えているか」と質問が上がった。安宅教授は「『教える』には、ティーチングとコーチングとフィードバックがあると考えている。ただ、日本における『教える』はティーチングだ。そうではなく、コーチングとフィードバックが主であるべきだと思っている」と話した。

 また冨士原紀絵委員(お茶の水女子大学基幹研究院人間科学系教授)が「これから先、生身の教員が存在する意義や意味」について問うと、安宅教授は「リアルな体験やリアルな空間なしに、人間が育ったり、変容したりすることはない。人と接するから、うれしかったり、悔しかったりという感情も生まれる。だからこそ、生身の教員の存在は極めて重大だ」とした。

 最後に安宅教授は「Chat GPTをはじめとする生成AIの時代が到来し、大学でも4月からの授業をどうするかということが話題になっている。しばらく何がいいのか分からない時期が続くだろう。そうすると教師は恐怖心を感じ出すかもしれない。しかし、そうじゃない。AIは人間のためにある。どうやって使い倒すかをみんなで学びながら、子供たちからも学ぶというのが正しい形だと思う。どんどん仕掛けていけたらいい」と締めくくった。

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